花の降る午後

花の降る午後
花の降る午後
<strong>君の為にしつらえた
此処は楽園
天然極彩の夢の柩
紅は君の爪先に
オレンジはぬばたまの髪飾り
白いパステルで
君の肌を塗り替え
ショッキングピンクの恋をする
鮮やかな薫に酔いどれ
君は永久の眠りに
犯される
ひとひらひとひら舞う花びらに
大輪を歌う花言葉に
僕は【くちづけ】と名付け
甘い毒を君から吸い込む
ぬるい真昼
透き通ってゆく
君と共に
天に召される
花の降る午後

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秋雨

秋雨

秋雨が森を静寂(しじま)で包むようあなたの声が耳に降る午後
秋雨の中に佇む女(ひと)がいて震える肩に悲泪石(ひるいせき)降る
悲しみが降り続くなら花園の棺に埋もれて眠れよ私
寂しさに名づけてくれとせがむ胸頬を伝う雨はいつも独り
夕映えも太陽も白く彩られ虚空にぽっかり秋雨は降る
静けさよ遠くでチャイム鳴る鐘の涙に濡れたくぐもる秋の日
泣かないで誰にもいえず口ごもる誰かの為に消えた雨音

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曼珠沙華

曼珠沙華
恋に名があれば楽になる病 蝕まれた紅 毒 死人花
朱に染まり朱に交わりて尚紅く褪せる真夏を焦がした火花
空の青やがて暮れゆく陽射しすら曼珠沙華には焼かれる宿命(さだめ)

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花陰の祈り

花陰の祈り
さざ波をたてる音に芯は濡れ記憶は薄く壊れた硝子
指に蜜薫りに秘密しっぽりと造花ではない切り花を抱く
あともなくさきもない今影を追い置いてけぼりの指にくちづけ
暗闇で開花する花に名をつけて優しく呼んだ地上の果ての名
君の目の中に映える僕はまだ輝く檻に閉ざされたまま
髪を撫で髪をなで上げ髪を梳くあなたが神に溶け出す祈り
暗闇が懐かしいと泣く子供子宮の中で暮らした二人

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花陰の人へ

花陰の人へ
花陰の人へ
赤い首輪の中に
おさまり切れない情熱が
紅黒くはみ出しながら
僕の芯に契約書を描かせる
偏愛の行方に身を任す女
あなたに呪縛の枷を
美しい人よ
シャンデリアの下の
飼い猫よ
唇から鳴き声
拘束から吐息
精神的陵辱すら
青い悦楽
ターコイズの
川の流れの真ん中で
僕は贈り物の天然石を
つなぎ合わせて
世界に境界線を引く
僕らが選んだ檻の中で
「愛してる」の愛憎劇は
世界を震わせる
さぁ
咲き誇れ
偏愛の火花よ
枯れることを知らない
彼岸花のように
激しさに染め濡れた
花陰の人よ

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花葬と葬列


花葬
なんで生まれてきたんだろう地球の裏側聞いた質問
さよならと早く言いたいさよならとベッドの柵で囲まれた脳
小鳥たち囀り空は青く澄み平和な午後にスカッドミサイル
真実を映す鏡はギラギラと光る眼を十年前の私に送信
なにひとつ遺せないまま逝く人の 骸を飾る朱の彼岸花

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オセロ

オセロ
白い顔をした介護師たち
包帯まみれのリハビリ患者
誉め言葉の裏側で
黒い噂話が翻った時
私の手にある白いペットボトルの液体は
震えて裏返りました
白内障の父は黒い老眼鏡越しに
駐車場前に群がる老人の
白いパジャマの群れを嘲笑い
黒いアスファルトの四角に置いた
自分の車を忘れてしまうのです
テレビは快活なエクササイズと
美白に美脚の放映を繰返し
待合室でその意味を解せるのは
黒い革靴の速歩きと
白い戦闘服の女たちで
裏返ったのは
女たちを責める幼児虐待の
ホワイトコールの黒い声でした
白いサンダルと白髪の集団に
はさまれて逃げ出したのは
黒いリクルートスーツの男性
やがて黒い部屋に
白衣装が一つだけ
黒いネクタイやスーツに
囲まれて
黒が安穏の勝利の笑みを
浮かべる頃になると
白い煙がのろしのように
立ち上ぼり
私の手にあったペットボトルは
すっかり
空っぽになってしまいました

詩と思想10月号選外佳作作品)

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籠の鳥

籠の鳥
小鳥に自由を与えた
籠の中に入れて
鳴き方を覚えさせ
餌付けをし
ラム酒を少し入れた水で
毎日可愛がっていたのだけれど
小鳥に自由を与えた
小鳥はいつも
「あなたのものよ」
と さえずるけれど
それは本当のことなのか
小鳥に自由を与えた
愛でるだけ 可愛がるだけでは
僕の疑惑は首をもたげる
だから小鳥に自由を与えた
かれこれ三日は帰ってこない
今頃小鳥は仲間をみつけて
違う喜びを知ったはず
僕の苦悩と引き替えに
小鳥は夢見心地でさえずるはず
「こんな世界があったのか」
「こんな自由があったのか」
〜自由になった小鳥はきっとかえることはないよ〜
悪魔のような囁きが頭の中でリフレインする
僕は知りたかったんだ
僕は確かめたかったんだ
小鳥はずっと僕のそばでさえずる事が
本当の幸福であるのだと
僕は小鳥が去った籠の中
「あなたのものよ」
という残声を胸に抱いたまま
籠(きみ)の中で囚われの身

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錯乱

錯乱
錯乱
あなたを
幸せの象徴
のように思ってた
私の
真ん中に幸福な未来
私の
真ん中に満ち足りた世界
あなたの真ん中に
砂上の楼閣
あなたの真ん中に
赤いドライフラワー
描けない夢
届かない声
穏やかな虚構
二人を隔てる透明な膜
触れ合う事さえ
赦されない
かつての日常
二人の真ん中に
飾られた
空白の錯乱

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何も浮かばない部屋

何も浮かばない部屋
何も浮かばない部屋で
言葉の泡を
パクパクさせる魚が
泳いでいた
何も浮かばない部屋で
蛍光灯が短い剣を
キラキラ振り回し
私の目を乱視にした
何も浮かばない部屋で
過去の栄光の紙切れや女神たちが
クスクス笑って
騒ぎ始めた
何も浮かばない部屋は
窓辺にサラマンダーを飼っていて
化石にならない命を
炎で焼いた
何も浮かばない部屋で
私は羊を数えていた
外は火遊び好きの魔女たちが
古代語魔術を唱えていた
何も浮かばない部屋
無言の水槽から一足
飛びだせば
自分の叫びが鼓膜を破り
シーラカンスは眠りについた

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