空

雲行きは
やっぱりあやしい
夏の恋は
稲妻のように
私の心を痺れさせたまま
遠い子宮に隠れてしまった
私は
期待の灯火だけ
残して
今日も
独り
暗闇に沈む

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姫君

姫君
かの姫君は
ネットと本があれば
生きてゆけるのです
他には何も知りたくない
幽閉王女は
ネットと本に
知識が瓶詰め
かの姫君は
幻想世界の住人です
膝を抱えて眠る
三角錐の中の少女
妄想でできた
伸び続ける白い白い象牙の塔
知識は一級品の物語
石灰石のバリケードで
身を守る
本棚の配列は彼女の遺伝子
象牙の塔は白い沈黙
姫君が
誠に恋を知ったなら
それは姫ではありません
城を抜け出したなら
それはきっと
美しいだけの愚かな女
けれどあなたは姫君です
ハイネの詩に恋をした
文字配列のレールの上を
歩み続ける
法則的な文学少女
姫君よ
早くお帰りなさい
あなたを抱くその腕は
地上にはない理想郷
あなたの愛する
教科書と
白い巨塔が
恋のまほろば
疑似恋愛が
いつかの墓標
ですから
探さないでやってください
今頃あなたの王子様
異国の船に乗せられて
廃盤の
古書になって
埋もれたまま
電波も届かない声
ちぎれた恋文
白紙の散乱
過去の人

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ひとつ

ひとつ
病院で
煙草をひとつ 恵んでくれないか?
と言われたので
貴方は骨折一本で?
と私は答えた
貴方が冷たい視線を
ひとつ投げ掛けたので
私は独りなのだ
と気づかされた
夏の雲がひとつもないので
ペットポトル一本買ったら
雨が降ってきた
過ぎ逝く 夏よ
奪うな  ひとつを
ドライフラワーになった赤薔薇
開かれない世界地図
遠い異国の残り香に
しがみつきたくても
力なく
ベッドから
はみ出した手は
どうしても ひとつだけを
守ってしまいます
横たわる悲鳴から
枕の上にしか
棲めないため息から
瞼を閉ざし始めた世界から
欲張りな私の泉を
命の極彩
私のひとつ
ひとつだけ

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くゆり煙草

くゆり煙草
くゆり煙草
あなたの指先が
私を知ってから
煙草の煙りのように
濃く 薄く
私は踊り吐き出される
身体があなたを知らなければ
早く灰皿で
ちびてくたびれる
私を消していって欲しかった
煙草はくゆる
私は貴方の匂いが染みついた
古びたシャツ
いつまでも
いつまでも
くゆり
くゆり

貴方の薫りと指に
挟まれて
踊らされながら
炎は独り涙で消えていった

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紅い旋律

紅い旋律
カルメンの カスタネットの 激しさに 狂乱乱舞男はタップ
君が抱く 君が掴む 君呻く 私はベッドで孤独なダンサー
灰皿に 置きっぱなしの 煙草には 呪いのような孤独が踊る
こじ開けた唇歪に音をたて もつれたままの音は二短調
赤い靴 踊り出すのは足でなく もっと上手に 脈打つ子宮
奏でてよ 爪紅染まる旋律で 動けなくして戦慄メロディー
紅に染まった空の世紀末 君はみたかい赤い靴の子
鮮やかに 真冬に向日葵咲くように 鼓動はショパン 革命的に

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薔薇の憂鬱と極彩の哀しみ

薔薇の憂鬱と極彩の哀しみ
悲しくて楽しい歌は詠えません地球に独り残された夜
二人裂く 嵐の夜の苛立ちが 瞳(め)から溢れる小さな海辺 
極彩色のアトリエに 今 君在らず 我の内にて閉ざされしまま 
枯れた薔薇 二本差し出す君の手が 描く文字は 居たい 会いたい 
誰一人出会わなければ深海で盲しいた眠れる魚になれた
強気な目 緑のドレスに紅き口 幽閉の画家 タマラ・ド・レンピッカ
別れ際 過去の栄光一編に描きたかったあなたの肖像
紅をさし 黄色い薔薇を 手折る時 花言葉憎くく 唇噛みて
 
朝露に 濡れた赤薔薇 引きちぎる 指に血の痕 嵐の夜明け
 
アイリスの芯の熱にて受粉した 絡めて薫る 濡れた指先

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青い鳥

青い鳥
青い鳥
夕闇から一条の想いが
青空にチョークで
夢の在処を配達する
昔 アスファルトに落書きした
まる
さんかく
しかく
には
足形と無邪気なままの笑い声
置いてけぼりの故郷は
空の蒼さに溶け込んだまま
鉄線が張り巡らされて
帰らず終いになってしまった
ちいさな私の青い鳥

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文字呪縛

文字呪縛
霞目に悩める君が傍らで眠りに入れる愛しき横顔
嘘偽りの呪縛にかかるペン先の恋なら標本の中
口角をあげて笑える女狐の夢にうなされ未来は見えず
音もなく言葉少なくうつむきてあなたは紙の上の旅人
囚われの王子に未だ聞こえざり 文字の中なる愛の呪文は
ジャン・コクトーの「偽」に関わり絡み合う下肢の二つの論ひそやかに

(改稿版)

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嘘で騙して黙らせて

嘘で騙して黙らせて
男性の聖人君主は一握りあとは腐れ外道かど阿呆か
男には騙されるなと母は言う経験者の苦労は黒くて
人はみな 自ずと愛を携えて掴んだままで腐らすキャッチー
優しいの裏側にある下心 三叉路 指さす標識のままに
ここは明日 詩人の墓になるらしい 中絶児の泣くサイト好評
悲しくて楽しい歌は詠えません地球に独り残された夜
大人には大人の事情があるんですお金で計算 愛の精算
何かいる だから叫ぶの怖いから猫の目みたいな黒い企み
今わたし 虚構を指で数えてる ペットボトルの水を濁らせ

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淨円月

淨円月
淨円月
踊り疲れた御霊たち
各々の宴を語り合い
清き月に照らされて
魂の行方に酔う
月 白く
鼓動 鋭く
枝 黒く
来世浄化の
メッセージは
柔らかな光降り注ぎ
あなた方の元に
安息の月日を
召還し
忘却の岸辺へ
記憶運ぶだろう
鎮魂を謳う青い闇
空には炎の
真白き円月

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