錯乱

錯乱
錯乱

あなたを
幸せの象徴
のように思ってた
私の
真ん中に幸福な未来
私の
真ん中に満ち足りた世界
あなたの真ん中に
砂上の楼閣
あなたの真ん中に
赤いドライフラワー
描けない夢
届かない声
穏やかな虚構
二人を隔てる透明な膜
触れ合う事さえ
赦されない
かつての日常
二人の真ん中に
飾られた
空白の錯乱

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楽しく笑え

楽しく笑え
テレビが
とある撮影現場を放映していた
ベルニーニの彫刻から
抜け出してきたような美男子が
鍛錬された筋肉を魅せつけては
ビキニ姿の女性千人くらいに
キラキラ声を上げさせていた
颯爽と水上バイクに跨り
晴れ渡った表情を味方につけて登場した
男の太陽のように眩しい笑顔は
青い風を誘い込み
女の白い身体のラインから
甘い香が立ち上る
撃ちすさぶ波飛沫に堪えながら
トロピカルな成熟さを狙うカメラマンは
命綱で身体を斜めにして
頭を打ち付けて撮影する
裏方の青ざめた表情たち
レポーターの饒舌で快活な声は
歯を食いしばりながら
腕を上げたまま鬱血している
アシスタントディレクターの筋肉に食い込んで
既に現場の犠牲となっていた
――あぁ、一度でいいから、あんなことして脚光を浴びて楽しく笑ってみたいわぁ――
父はたいそうご機嫌で
深椅子にもたれて
水羊羹を掬い取っては口に運ぶ
私は何も言えずに
楽しく笑った

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私たち

私たち
滲んでは涙流れる夕暮れに過ぎゆくだけの昔の約束
君の嘘 君の溜め息 君の哀 解らないままここまできたよ
赤薔薇は二輪照らし出された私たち花言葉遠く距離も遠く
お揃いのトップスばかりを欲しがるの一生一緒の気分でいたくて
さよならに そしてはないの これきりね裏切り重ね傍にいた日々
はじめまして の次の自己紹介 私はあなたにニックネームで呼ばれてた
静寂が二時間前の君の声喪失される眠りたくない
吹き荒れる季節もあったね私たち抱き締めながら歩いていこう
夕暮れにあなたの声が聞こえたわ握り締めたの携帯電話
今からは夢の中で会いましょう朝日をみるまで泣いてるみの虫
愛してる 疲れる愛をしてきたね愛に定義はなかったはずで

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桔梗

桔梗
廃屋に
今年も 紫の桔梗が
二輪咲く
植えた女主人は
介護疲れで井戸の中
花弁の輪郭に
思い出をなぞると
過去の笑顔に
辿り着く
砂の城に住んでいた
光の中の男と女
夢のような時間
咲き乱れた想い
疲れはてた花は
色褪せた水中花
まだ 息をしている
植物のような貴方を残して
殺害するより
自殺した
女主人の寂れた王国に
今年も二輪の
桔梗が寄り添う
指で押すと
パチンと蕾は泣いた
叫んだように
裂けて
壊れた

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くれる

くれる
くれる写真
うなだれた向日葵のように
へそを曲げて点かない街灯
どんなに走っても
追いつけない虹の国
アスファルトの向こう側くらいには
頬を染めて待っているから
落書きのような
曖昧な恋の約束を抱いて
思い出に追いつけないまま
色褪せた
今日が暮れゆく

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廃墟と涙

「廃墟と涙」
彩(あざやかな)世界を見上げ叫んでる空哀しみの観覧車箱
秘密だよだれも秘密の基地だから独りの皇子にひとつの王国
みつけない見つからないの憎しみは壊れた瓶に埋もれたまま
さようなら割れた硝子を曇らせた貴方の眉間と出せない言葉
置き去りに忘れ去られた赤い椅子 主は帰らず褪せた思い出
ここなのよここにあったの学校が宅地で笑う知らない家族
図書館の本ひとつを探すならきっとあそこのチェルノブイリ
ハトロン紙かけて扱う恋人は自分の爪も透明なまま
くたびれたパイプオルガンが引き鳴らすアトランティスのレクイエム奏

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終焉の子守歌

終焉の子守歌
終焉の子守歌
夕暮れを
暗黒の腕が掴もうとして
色彩が地平線の彼方から
あっかんべえをする
此処までおいで
傲慢と虚飾に満ちた
地球の裏側を裏返せるのは
一枚の瑠璃色の夢
切り取られた
シャッターのワガママ
こっちへおいで
遠い千夜一夜のの
子守歌を教えてあげるから
今は薄く照らされて
世界の終焉に
恋い焦がれ
泣いたらいい

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夜想曲

夜想曲
敷き詰められた
闇色の絨毯に
あたしは
カラダを
沈めて
涙のような
桜の花弁に
埋もれるのを
待っているの
きれいな夢が
みたいなら
ここで
造られた関節の
向こう側の
黄泉(くに)へ
壊れた魂(こころ)ごと
連れ去ってください
ナイチンゲールが
死んだ
赤い月夜
あたしは眠り続ける
渦を巻く花弁を形見に
どうか
どうか
この夢路を赦したまえ

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桜想

「桜想」
私は着飾る
シルクの黒いドレスと
鎖骨に煌めくガーネット
そして貴方の視線で
私は顕現する
私は慕う
この一輪の桜草を
くださった貴方に
髪を乱し
花の香に酔う
夢 夢に在らず
花 存らえど
恋 心通わず
ただ
桜草一輪に
貴方を重ね
一夜に身を委ねても
お慕い申しております
物想え
薄紅色の小さな星ぼし
私の高鳴る鼓動のままに
夏の空を駆け抜けた
淡い流星
桜星
されど消えゆく私の初恋
届かぬ雫を珠にして
貫いたのは貴方御自身
花びらの降る夜
静寂にため息
桜草を抱いて
恋に沈む

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渇き

渇き
鼻水と痰が
喉に流れ続け
夜中に目覚めれば
あの人は
フィラリアに侵された咳を
静寂に響かせながら
私を責める
もう一人は血統書付きのパグ犬
散歩をねだる声は掠れて
身体を横たえて
垂れ流し
犬は命が行き詰まり
金で命を量ります
餓えた涙声を聞き取ります
熱と汗に苛まれる夜から
逃れるように
食べ物を漁ると
ラッピングされた骨が
空っぽのはずの冷蔵庫から
徐々に崩れていきます
風邪薬が餌のように
見えた秘密
知っていたのは
アオミドロ色の
ペットポトル
私たち全員
仲良く死にます
お願いですから
どうか
お水を 一杯
ください
死ぬ前とその後に

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