情け知らず

情け知らず
発ち急ぐ想いに身を委ね
荒波に浚われるまま
自己処罰繰り返しても
我 独活(ひとり)
人の情けに刃を向け
抱かれても 独り
愛情遍歴を繰り返す度に
束の間の癒しを求め
時は無残に親しき人の命
刻々と奪う
情けなき我を
罵倒する声 届かず

過ち繰返し「女」に
なりし日に訃報来しこと
覚悟の上
泣かれても 泣いてみても
歩む
暮れゆくネオン街
夕暮れの薫風冷えて肌恋し
郭公の狡さに格好の悪さ
我独り
ホテルの引き出しに
恥を終まえり
蜜指で走り書きしたメモを残して
「情け知らず 世間知らず」
と 文字は惨めに滲めり

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黙殺

黙殺
飲み込んだ電車が
身構える集団の
溜め息を芯から奪う
今日も満室部屋で
円滑に回るシステムに
妥協と愛想笑いが
個別に煙りを立ち上げて
ウイルスが口から流れだし
余儀無く迎合する群れ
消毒液の夢
騒音はシャットアウト
兵士は構えた銃の記憶を
クリアーにリセットして
泥のように眠れ
手垢だらけの
朝刊がくるまでは

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あまたの人へ

あまたの人へ
阿僧祇の次の位の数多の星よ
輝き続けよ
薄汚れた街に染まることなく
人工電灯に媚びることなく
数多の未知数を未来に抱えて
歩めよ
叫べよ
吠えて噛みつけ
幾つもの愛想笑い
幾つものシフトカード
幾つもの安い給料明細書
大人の近道も必要事項
覚えておいて損は無し
世渡り上手に街を泳ぐも
されど
お前は透明な天球議
都会では計り知れない
尺度と高さと潔さ
心して旅にでよ
人の手垢の届かぬその名に相応しく
阿僧祇から一条の光射すがまま
その上の高みを進みゆけ
そしてお前は知るだろう
お前の名に
お前の未来に
未知数の夢が
終わらない詩が
春嵐の情熱が
用意されていることを

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お話し

お話し
今日の絵本は何物語
千夜一夜の恋物語
宇宙飛行したライカ犬の夢
国創りの神様の大望ロマン
いいえ いいえ
そんな話しはよしましょう
一夜は漆黒の夜露の涙
ライカ犬は宇宙で孤独死
物質文明から逃げ出した男
そんな話しはよしましょう
例えば明日晴れていたなら
海辺に二人足を浸して
白いワンピースから肌を透かせて
異国の桜貝の嬉し泣きを手にとって
泡にならない人魚姫の話しをしましょう
もう
眠ってしまった貴女の
ゆりかごの中に
このおしゃべりな絵本を添えてあげるから
今朝の憂鬱から
昼間の喧騒から
夜の微熱から
清流のせせらぎ
浄化と慈しみの泉にも似た
豊穣に満ちた声を
聞かせては
くれませんか
ですから
どうか
お話ししてください
私の知らない私と
逢瀬を繰り返して遊び続ける
貴女の意地悪
貴女の悪戯
私を夢中にさせる
夢物語を一千夜

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静寂

静寂
この夜のむこうがわに
夢みる哲学者
この夜のむこうがわに
踊り疲れた悲しい女
この夜のむこうがわに
終電に間に合わなかったサラリーマン
僕は
この夜のむこうがわに
瞑想する
リアリスト・メルヘン
朝日が昇るまで
遠く 遠く
銀河鉄道に乗って
カムパネルラに会いに行く

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海月

海月
海の導き 月は十六夜
潮の満ち引き 恋は駆け引き
高波に打ち寄せあげられた
異国の小瓶
涙で滲んだインクの手紙
(どうかこの種を沈めて咲かせてください)
宛先のない女の足跡は
打ち寄せる浜辺で
時計の砂が落ちるように
さらさら
さらさら
さらさら
と 巻き戻せない時を抱いて
透けた思い出を
フワフワ
フワフワ
浮かべて漂う一匹の
青い闇の白い灯台
花は咲かない
砂漠で花は
疲れた街では
渇いた身体では
まして透明な過去の中では

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街の目

街の目
赤黒い毛布一枚で眠る人路上を見上げる鋭い眼光
片手間にピンクの携帯忙しく退屈すぎる女子高生徒
パトカーのサイレン音が追いかける街の正義は赤信号で
真夜中に叫び続けるインディーズバンドの声に一円の価値
死んだのか生きてるかは無問題救急車たちは重役出勤
黒猫の眼光鋭く玉虫に私を見透かすしなやかな刃(キバ)
右ラブホ左はパチンコ不眠街夜空の星はネオンに消えて
この街に野垂れ死にした叔父さんは汚い服に名札だけ
笑っている笑ってるよ大声でいつ死ぬのかないつ死ぬのかな
僕独り歩む街の間違い探し自分の足で確認中の身
ハンバーガー紺のソックス空き缶と段ボールを集める人間の距離
生き死にの狭間をせかせかくぐり抜けたどり着きます休めるホテル
この街の視線はさっき横切った黒猫の目 玉虫ネオン

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人魚愚話   

人魚愚話
『人間の命は、私達の命よりももっと短いのよ。私達は三百歳にもなれるでしょう。でも、私達は、ここにいることをやめれば、水の上の泡になってしまうの。そして、この底で親しい人達の間に、お墓をつくってもらうこともできない。私達は、死ぬことのないたましいをもってはいないの。それに比べて人間は、いつまでも生きるたましいをもっているの。体が土になってしまっても、たましいは生きて澄んだ空気の中のぼってきらきら光るお星様のところへいくのよ!私達が、海から浮かびあがって人間の国々を見るように、人間は、私達が決して見ることのできない、誰も知らない美しいところへのぼれるのよ。』『なぜ私達は、死ぬことのないたましいをもらわなかったの!私の生きれる何百年という命をかえしてもいいから、ほんの一日でも人間になって、やがては天国という所へ仲間入りしたいわ。』
       アンデルセン童話“人魚姫”より

これは、人魚姫とその乳母の話。その後は貴方の知ってる通りよ。人魚は人間の王子に恋をしたけれど、彼の胸に短剣を刺すこともできずに海の泡になってしまったわ。結局は、独り恋心を胸に抱いて自らの愛に殉ずるのよ。全くいい話よねぇ。私だったらそんな真似出来っこないわ。貴方だってそうでしょう?
それとも、人魚のロマンシズムと一緒に心中するかしら?
――あらごめんなさい。貴方が知りたかったのは『人魚姫』じゃなくてもう一つの人魚の話だったわね。
――そう焦らないで。物語はこれからお話しするわ。
そのまえに紅茶でも一杯どうかしら?
だって今から貴方に語る物語は私にとっても貴方にとっても長い長い話になるんですもの。
 どうだったかしら。紅茶の味は?少し苦かったんじゃない?
――あら別にじらしている訳じゃないのよ。
ふふ。じゃそろそろ本題に入りましょうか。実はね、人間界に憧れて人間の王子に恋をした人魚はもう一匹いたのよ。いきさつは、人魚姫と同じ。
彼女も魔女に自分の声をあげたわ。
そして人間になる薬をもらったの。海の中で一番美しい声とひきかえによ。
それだけじゃないわ、慣れない足で焼けつく大地を一足踏むごとに、鋭いナイフの上を歩いてい痛みがはしるわ。
ふふ、どう、恋の為とはいえ、家庭も自らの肉体をも犠牲にしてそこまでの恋が貴方にできるかしら?
 王子は本当に美しい人間だったわ。姿形だけじゃなくってね。ある舞踏会の日、王子は宮殿のバルコニーで人魚にこんな話をしたの。
「物言わぬ可哀そうな君のかわりに、僕が少し喋ってもいいだろうか?君はこの満天の星空をどう思う?僕はね、月よりも星が好きなんだ…。このビロードの空に散りばめられた宝石は何万光年もかかって地上に届くんだよ。
だからね、実際僕や君が目にするこの星の光はもしかしたら、今はもうない星の光かもしれない。全く酷い裏切りだよね。星はずっと僕を裏切り続けるけど、それでも僕はこの清く高らかな美しさの前では無力だよ。彼らの偽りの輝きを許せる程、星が好きなんだ…。何かを許し見守っていくということは愛するという言葉に似ていると思わないか。
君は口がきけないけれど、君が僕を見る瞳は、僕が星を眺める時の瞳と何だか似ているね…。」
 人魚はね、この時程王子を愛したことはなかったと思うわ。そしてこの時程、自分の声がだせないことを悔やんだこともなかったのよ。
その日は、年に一度、ペルセウス座の流星群が降る夜だったの。
それを知ってて王子は人魚に星空を見せたのよ。そして王子は人魚に流れ星が消える間に願い事を祈ると望みは叶う人間古来の伝説を人魚に話したの。その人魚は願ったわ。目を閉じて強く強く王子に自分の気持ちを伝える為の声を返して欲しいと。けれど王子はそんな人魚の様子を優しく笑ってから夜空をずっと眺めていたわ。
王子は、流れ星を何度も数えることは出来ても目を閉じて、ましてその輝きに自分の貪欲な願いを託すなんて出来ない人だったのよ。
 王子が人魚にそんな話をしたのも、政略結婚の相手がその時、既に決まっていたからかもしれないわ。
 権力と地位誇示の為とはいえ、酷い話よねぇ。
見ず知らずの相手と結婚するだなんて今の時代ではとうてい考えられないことだわ。
貴方に出来る?全く知らない人と一生を共有するのよ。
人魚はね、そんな王子のやるせない気持ちと、自分の恋心の行方に悩んだわ。王子と結ばれなければ自分は水の泡になるんですもの。それに政略結婚は王子に対して幸福を呼ぶものだったかしら?
 人魚は王子が式をあげる前の夜、彼の寝室へ忍び入ったわ。手には姉たちからもらった短剣を抱いてね。
ねぇ、これから人魚はどうしたと思う
――彼女はその短剣で自分の手首を傷つけ、その血を王子に飲ませたのよ。
 貴方も知ってると思うけど人魚の血は古来より人間にとっては不老不死の妙薬よ。
人魚は考えたのよ。たましいよりも王子と永久にこの世で生き続けることを願ったのよ。天国よりも、この世を選んだの。
しかし彼女にも誤算があったわ。
人魚の血は不老不死の妙薬だけど、人間に多量に飲ませると、拒絶反応がおこり副作用で、その人間を半獣化させてしまう品物だったのよ……。
王子の手には獣の爪が生え皮膚は硬いうろこで覆われた、目は血色に染まってまともな人間の姿でいられるのは、三週間のうち一週間だけなの。
もちろん王子の婚約者は、彼のことを“化け物”とののしるなり、去っていったわ。心は、王子のままなのに人魚以外、誰も彼を愛せなかったのよ……。人魚が考えた安易な計略はもっとも愛しい人を悲しみの淵におとしいれたわ。そして最も皮肉な恋の勝者になったのよ。
 ―――それからどうなったかですって?そうね、貴方には紅茶も飲んでもらったことだし最後まで聞いていただくわ。でもここでは何だから少し雰囲気を出すために場所を変えましょうか?
実はね、この館には地下室があるのよ。そこに案内するわ。
 ふふ、怖い?この階段を降りていってちょうだい。
少し滑るかもしれないから足もとには気を付けてね。
 地下室までは、まだまだあるわ。退屈しのぎに一つ別の話をするわね。
 ねぇ『パリスの審判』って話知ってる?ギリシャ神話では、割と有名で宗教画にもよくでてくるのだけれど、わかるかしら?
 内容はいたって簡単。ある女神のコンクールで一番美しい女神に黄金のリンゴを贈るのだけれど、その審判にパリスが選ばれるの。
三人の女神は競いあってパリスにいろんな賄賂を贈ったわ。
 ある女神 はパリスに広大な土地を、ある女神は、戦いにおけるすべての勝利、最後の女神は、世界一の美女を与えたの。
 ねぇ、パリスは何を選んだと思う?―――解らないって顔ね。ふふ。パリスが選んだのは広大な土地や莫大な財産や権力でもなく、無欲な美女を選んだわ。
たとえ選んだ女が後にトロイヤ戦争を引き起こすほどの災いの美女でもね。
結局、人は人しか愛せないのよ。
 ねぇ、貴方はどう思う?自らを破滅に導く女を選んだパリスを、愚か者よと笑うかしら?
 さぁ、ついたわ。何故私が、あんな話をしたかって?
―――そうね。まずはこの檻の中を見てちょうだい。
―――なぜそんな悲鳴を上げるの!なぜ目を背けるの!そんなに怖がらないで。彼は啼くだけで何もしないわ。
もう何も、できないのよ…。
―――貴方が知りたがった人魚の話の続きを今明らかにするわ。
 彼がさっきから話していた王子様。これが私の好きな人のなれの果て…。
こうして鉄格子をとおして唇をかわすだけだけど私は彼を愛しているの。
あの婚約者のように逃げたりなんかしないわ。
彼の思考能力も美貌も奪ったのは私!さぁ、これで解ったでしょ。
王子に血を飲ませた人魚は私なの!
―――でも私は彼がどんな姿になっても彼が好き!!どんなに私を忘れてしまっても私が二人分愛するわ!!
     え、それは単なるエゴですって?
     ――そうかもしれないわ。
     自己満足のための独占欲ですって?
     ――そうかもしれないわ。
     私の行っているのは悪行ですって?
     ――そうよ。全ての災いは私。
 おかげで罰が下ったの。
私は永遠の命を授けられたけれど天国にはいけない。たましいというものを与えられなかったの。
だから何なの!この地上で彼と永遠に運命を共にするの。ここは、花も咲かない。
ここにはこの人の好きな星も見えないの…。彼と一緒に眺めた流星は、私の願いを叶えてくれたわ。
でもね、声が出せる頃にはこの人に私の言葉はとどかなかったのよ。本当に皮肉な話よね…。
 え、私が泣いてるですって。アハハ、どうして泣くの。泣く必要なんかあるもんですか!!
 ここが地獄でも二人永遠に生きられるなら天国かもしれないじゃない。
植物も生えないこの地下牢を、この世の果てと呼ぶ人がいても私には天国なの。
 ほら、昔からよく言うじゃない。
 “天国、地獄を絵に描けば地獄のほうがおもしろそう”って。
 ――貴方の知りたがったもう一つの人魚の話は、これで終わり…といいたい所だけど、実はね、まだ続いているのよ。
ふふ、知りたい?その前に、先程飲んだ紅茶は、おいしかったかしら?
――まさかって顔ね。実は貴方の察するとおりよ。あの紅茶には微量だけど、私の血が入っていたの。
――なぜそんなことをするのか?ですって。
――だって私はこれからずっと薄暗い地下牢で王子と同じ夢を見なければならないでしょ。
あの人の傍を離れる訳にはいかないのよ…。
貴方には可哀そうだけど、私達の恋の犠牲になっていただくわ。
 人の悲劇を簡単な好奇心で聞くものじゃないわ。この話の代償は高くつくのよ。
貴方にも永遠を与えたわ。
 さぁ、行って!私の代わりに語り続けて。
人に恋した人魚の話。
私にとっても貴方にとっても、この長い物語は始まったばかりなのよ。
                                    END

     ※20歳当時に書いた作品です。

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男と女の間に 指
荷物を背負う為の
フライパンを持つ為の
あるいは
抱き寄せる為の
リングを嵌める為の

紡ぎだす指で
男は詩をかき
女はピアノをひく
歌は未来に産まれくる
ニンフが地上で
泣かないように作曲した
子守唄
男は縦糸を
女は横糸を
未来永劫編み上げてゆく
二人の指先が
たとえ
あかぎれ ひびわれて
血が滲んだとしても
もう火が消えることはない
冬を越すセーターを
編み終えた 指たちは
男と女の間に
ろうそくの灯り消さない為の
手のひら
と呼ばれたから

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この糸をたぐりよせれば
貴女の髪にたどり着く
濡れた髪に触れたとき
後ろ姿で震えた貴女
この糸をたぐりよせれば
成熟な夜にたどり着く
シーツの海を泳いだ人魚
忘れてしまった帰る国
この糸をたぐりよせれば
艶やかな声にたどり着く
唇から漏らされる母音が
長い列を絶やさない
糸の呪縛に捉えられ
肉体は透明さをおびて
精神崩壊の早さに
僕たちは地球上から
陰だけ遺して
姿を消した
この糸をたぐりよせれば
貴女の傍にたどり着く
珠玉の夜露から
糸を垂らした闇夜の娘

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