波乱

波乱
あなたは
私を攫う波
何度も何度でも
突き上げては
狂い落とす
絶頂の高波に曝されて
悦楽の私の顔に
薄笑い
盃 独り傾けて
私を船に味わう
優しさと男らしさの指使い
私の身体で詩を書く男
私に身体で詩を憶えさせる
危険な荒波
波乱の渦にはイマジネーション
息づかいにはイリュージョン
腹部に沈めた珊瑚礁
私は恋の難破船
人魚は巧く歩けない
痺れた痣から逃れられない 
未だに波乱の渦中を
彷徨い
溢れ 溶け出す雫
真珠の泪を瓶に詰めても
届かない明日
波に消された悲涙石(ヒルイセキ)

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マニュキアと乙女

マニュキュアと乙女
サイダーのような泡たちたちまちに弾けて痛い恋心たち
マニキュアに染み込んだ赤は気の毒な今日のおばさん笑う口元
なみだって意味がなくても流れるの背中合わせのおまえの海辺
ひらひらとアシンメトリーのスカートを午後の太陽に知られた秘密
痛いのは空っぽだらけ心なの夜に擦りむく傷口が泣く
艶やかな流し目よりも オーバーニー 下ろし立てなら くちびるだけで
セーラー服の胸元をそっと押すと胸がいたい 少しだけ大人がキライ
お揃いのピンキーリング小指だけスペシャルなまま非売品
血を流す意味がなくても血を流す女になったら着れない水着
鏡さん早くウサギを連れてきてアリスになれない私ははだか

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海と柘榴

海と石榴
人の傷口に
触れないことが
愛だという
私の傷口に
触れる奴は
私の傷口を
必ず癒すことが
できる奴
でなければ
あんなにも
女の体の内に
海を秘めた石榴が
パックリと
容易く開いているものか
あなただけの石榴だ
さぁ
傷口を塞いでくれ

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あかちゃんのにぎりこぶし


あかちゃんのにぎりこぶし
赤ちゃんが 大声で
泣いて産まれてくるんはな
誕生の喜びちゅうか
命の讃歌なんやで
もう ひとつはな
人生の道のりの辛さかも知れへんけどな
なかには
産声も上げられへん
赤ちゃんも おるんよ
でもな
安心して
神様は ちゃんと
お見通しや
赤ちゃんの握りこぶし
あの中にはな
その子が
生きてゆく為に
使い果たせるくらいの幸せ
両手に独り占めして
産まれてくるんよ
だからな
サイレントベイビー
とか
言わんと
ちゃんと人前でも
堂々と泣ける
真っ直ぐな子に育てたってな
ほら
昔の人は言うやないの
「千両蔵より子は宝」
言うて
昔の人も
赤ちゃんが 両手に
宝 握っとんの
知っとったんやろか
千両蔵握っとる
赤ちゃんの柔らかいにぎりこぶし
宝ごとボイコットしたら
赤ちゃんより
わてが 泣くわ
空見上げながら
「あ〜ん!あ〜ん!」
言うて泣きやめへんさかい
そこんところ
宜しく堪忍してな
かんにん
かんにん
かんにん
やで。

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僕の名は

僕の名は
僕の名は
記号なのかと訪ねられ
黙ったまま
あなた方の
夜を見守った
木偶の坊と言われて
突っ立ったまま
季節は過ぎた
寒くないのかと怒られて
寂しいと答えて
酒を注がれた
だけどなぜか
熱烈な
阪神タイガースファンには
人気者
冴えない癖に
目立ちたがり屋の
僕の名は
「私」と
呼ばれているらしい

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春の高さ

春の高さ
春の高さ
空を刺す電柱は
見上げる私に
春告鳥の羽ばたきを
聞けよ
燕の囀りを
英訳せよと
投げ掛ける
蕾 開花し
空 高く
鳥 歌い
私 詩を紡ぐ
光のみ射す
青き空を
串刺しにする
焼けた肌の午後の
春の高さ

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爆弾発言の下に

爆弾発言の下で
根っこ
桜の木の下には死体が埋まっているんだよ…
爆弾発言をした文学者は
知っていたんでしょうか
昔 日本に
桜の下に死体が埋まっていた歴史を

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恋人たちが一方通行の標識の下で
笑い合うべンチ
斜めの窓際で老人は最後の作品を
綴り始めた
恋人たちの躁病と鬱病への陶酔はなりやまず
老人の遺書は尊厳死に値する
友人の声は巧みな技で好意的
その反面
本性は果たし状
わからないの?
薄笑いを浮かべる年増の女の日記は
私を終焉の真っ暗森へ誘う
傾いた家屋は崩壊を続けながら
瓦礫たちが身にのしかかり
鈍い残響が鼓膜を打ち破る
助けて!
いたずらに発した私の爆声に
見知った女が一人
私の首を絞めながら
「信じるってどうすることなの?」
私の後ろの私に問いただす
その頃両親の危篤のメールは
確実に着信履歴に残っていて
穏やかな神の形見みたいな
アメージンググレースの音楽が
訃報を告げていた
ねぇ、今、何時?

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血を流す

血を流す
男は汗をかく
女は血を流す
それは化石にならない伝統
私の内にある「女」という血脈が
一人の強い「男」を受け入れるまで
血を流す
私は夢想する
三畳あれば十分の原っぱが二人の世界
あなたの引力が私の原子核中を破る時
小さくあげる悲鳴を合図に
教会の鐘は世界に響き
祝福の証が
口から温かく溶けだし
赤く紅く咲く
夜空の流星が私の頬を伝う頃
あなたの放つベクトルの強さたちは
宇宙の芯に焼かれ燃え尽き
やがて「一人」が
豊かな土壌に眠り落ち
私の中に
一本の名もない花を芽吹かせるだろう
今は来るべき甘い痛みと引き換えに
冷たく光る銀板にキチンとパッケージされた
褐色の楕円形の粒たち
手渡された瞬間
金切り声をあげた人々に
運命ごと連れ去れて行く
白い担架の上の女
うめき声と蒼白い手が
毛布から痙攣してはみ出す
彼女を追いかけ続ける緋色の滴
点滅しはじめた
手術中の赤いランプも
血を流す

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雛罌粟心中

「雛罌粟心中」
家を捨ててきたと言う
雛罌粟が咲き誇る赤い心で
死にたいと言う
蒼白い唇は
言葉を噛み砕いたように
真っ青なままで
ならば殺してあげる
私の美学で
私のやり方で
爪先まで咲かせて
散らしてから
止めを刺しましょう
寂しいは寒いに似てるでしょうから
雛罌粟風呂へ行きましょう
赤く咲いても
芥子の花
毒入り風呂で横たわる
貴女は何も知らない
白痴のマリア
手首に紅芥子の花
指先から身体中を
赤く染め
綺麗ね
と笑う白痴のマリア
私の瞳に一枚のモナリザ
切り取ったフレームに追い付けなくて
瞳を逸らせないまま
動けない
人は あからさまな悪意と
精錬な美の前に息が止まる
貴女は知らないだろうけど
毒風呂から剥き出しの
貴女をひざまづかせて
カンパリを無理やり口付けて差し込んだのは
貴女を拘束して
神に見せない為にだけ
力なく従順に開かれる唇から
火のような液体が溢れだし
デコルテを伝う鮮血は
炎となって秘所に堕ちて
雫は身体を焦がす
一人はアオイケモノになり
姫は蛇の舌で啜り泣き
カンパリとカルパッチョ
チーズに挟んだピンクローズと雛罌粟
こんなに美味しいものは
最初で最期ね
私たちは小指だけを
絡ませて赤い夢をみる
ねぇ、明日此のまま死んでたら
それはそれで幸せね
でも運悪く生きてたら
もう一度
貴女の心音の高鳴りを
聴かせてください
貴女は生きて活きて
雛罌粟畑を後にヒールを響かせ
帰ってゆく
でも確かに
弱い貴女は死んだのだ
雛罌粟風呂の中で
魂を奪われた私とともに
遥かなる赤い記憶
雛罌粟心中

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